小児外科

福岡大学外科講座は、新生児から15歳までの小児の外科疾患に対し、日本小児外科学会の認定医施設として、指導医、専門医による小児外科診療を行っています。対象とする疾患は腹部・消化器系の病気を中心に、頸部、胸部、体表など多岐にわたりますが、鼠径ヘルニア、でべそ(臍ヘルニア)、便秘や血便、小児の肛門病変、皮膚や皮下の腫瘤などの日常的疾患にも対応しています。虫垂炎や腸重積症などの救急疾患については小児科との連携により24時間体制で対応しています。
また福岡大学病院は福岡県の総合周産期母子医療センターに指定されており、2011年1月の新診療棟の完成によりNICUはGCUと合わせて45床に増床されました。小児外科はこのセンターの一員として出生前診断の段階から産婦人科、小児科と連携を取りながら、あらゆる新生児・乳児の外科疾患に対応しています。
診療チームの特徴としては、日本内視鏡外科学会の技術認定医として豊富な診療経験を有する指導医を中心に、傷が小さな・低侵襲の治療をめざして鼠径ヘルニア(男児・女児とも)、虫垂炎、噴門形成術、摘脾術、ヒルシュスプルング病根治術(腹腔鏡下・経肛門手術)などに対する小児の内視鏡外科手術にも積極的に取り組んでおり、症例数も急増しています。

診察領域について

腹部を中心に胸部(心臓を除く)、頚部、体表面など広い範囲の領域の診療をしています。
  • 胆道閉鎖症
    食道閉鎖症、横隔膜ヘルニア、腸閉鎖・狭窄症、消化管穿孔、新生児壊死性腸炎、胎便性腹膜炎、腸回転異常症、腹壁形成異常(臍帯ヘルニア・腹壁破裂等)、鎖肛(直腸肛門奇形)など
  • 腫瘍性疾患
    小児の固形腫瘍:神経芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、肝芽腫、奇形腫などの悪性腫瘍、リンパ管腫、血管腫、卵巣腫瘍などの良性腫瘍
  • 胸部疾患
    食道狭窄症、嚢胞性肺疾患(肺分画症、CCAM等)など
  • 消化管疾患
    胃食道逆流症、肥厚性幽門狭窄症、腸管重複症、急性虫垂炎、腸重積症、ヒルシュスプルング病、小児の腸閉塞・腸炎、消化管異物など
  • 肝胆膵疾患
    胆道閉鎖症、先天性胆道拡張症、肝腫瘤、膵嚢胞など
  • 重症身障児に対する手術治療
    胃食道逆流症(逆流防止手術)、胃瘻造設術、腸瘻造設術、喉頭気管分離手術など
  • その他、日常的疾患
    鼠径ヘルニア、停留精巣、包茎、臍ヘルニア、肛門周囲膿瘍、陰唇癒合、慢性便秘、頸部・耳前瘻、皮膚・皮下腫瘤、胸腹部の外傷など
  • 腹腔鏡下手術の対象となる主な疾患
    鼠径ヘルニア、急性虫垂炎、腸重積症、卵巣嚢腫、胃食道逆流症、メッケル憩室、ヒルシュスプルング病、鎖肛、胆嚢、脾臓疾患など

手術・治療について

小児鼠径ヘルニアの腹腔鏡下手術(LPEC法)

鼠径ヘルニアの患者さんのおなかの中を腹腔鏡で観察すると、おなかの底にヘルニア門という腸管や卵巣がはまり込む落とし穴をはっきり見ることができます。拡大した視野で観察しながら専用の針でヘルニア門の周りに糸を回し、その糸を結んで落とし穴を閉じることで、ヘルニアを治す方法です。この手術では腹腔鏡を入れるためのおへそと、細い手術器具(鉗子)を入れるためのもう1カ所の小さなきずが必要ですが、下腹部には注射針で穴をあけるだけで、きずあとが目立たず、さらに両側のヘルニアが同時に手術できるというメリットがあります。従来の方法と同様に体への負担は少なく、これまでの報告では、従来の皮膚を切開して行う方法と再発などの治療成績に違いは認められていません。当科では男児・女児ともにこの方法の手術を行っています。

急性虫垂炎、腸重積症に対する腹腔鏡下手術

急性虫垂炎は右下腹部にある虫垂の化膿性炎症で、多くは緊急手術による虫垂の切除が必要となります。当科では臍窩(さいか:おへそのくぼみ)の中で小さく開腹し、腹腔鏡を用いておへそから虫垂を引き出して切除する方法を用いています。この方法は傷がほとんど目立たないだけでなく、腹腔鏡で虫垂とその周囲、さらに腹腔内全体の状態を細かく観察することができるため、炎症の進行度によってさまざまな対応ができるという利点があります。また、手術の必要な腸重積症に対しても腹腔鏡下に重積を解除する手術を行っています。

胃食道逆流症に対する腹腔鏡下噴門形成手術

乳幼児や重症身障児の中には、胃から食道に内容が逆流を繰り返すために、食物の摂取がうまくできないだけでなく、食道炎やのどへの刺激、誤嚥性の肺炎をくりかえしていることがあります。逆流のひどい場合は、腹部食道の周りに胃の上部を小さく巻き付けて、胃の入り口(噴門)の形を少し変えて逆流しにくい形を作る噴門形成手術を行いますが、これを腹腔鏡手術で行っています。

ヒルシュスプルング病に対する経肛門的、腹腔鏡下手術

赤ちゃんの便秘の中には大腸の蠕動(便を運ぶための動き)に必要な神経節細胞が腸の壁の中に生まれつきないことによっておこるヒルシュスプルング病という病気があります。神経節のない部分の大腸は便を運ぶことができず、頑固な便秘を示すほか、生命に関わる腸閉塞を起こすこともあるため、その部分の腸を切除して肛門につなぎ合わせる手術が必要です。昔は開腹手術が行われていましたが、現在はほとんどの症例でおなかに傷がまったく残らない肛門からの手術、もしくは傷の小さな腹腔鏡手術によって病変部の腸管を切除する根治手術を行っています。無神経節腸管の長い場合はいったん人工肛門を作る必要があることもありますが、排便管理の工夫を行い早期に手術を行うことで人工肛門を作らない小さな傷での手術が可能になってきています。

小児の便秘に対する評価と治療

小児外科では先天性の直腸肛門奇形やヒルシュスプルング病などの手術を行っていますが、術後にも排便機能の確立を目指して長期間のフォローアップと管理指導を行っています。そのため小児の便秘に対しては、外科疾患の鑑別のための諸検査をはじめとして、宿便の除去、排便状況の評価など専門的な対応が可能です。福大病院小児外科外来では、慢性的な便秘から遺糞症状を示す難治性のものまで便秘で苦しむたくさんの子どもたちに対して、丁寧で、かつ粘り強い対応を心掛けて診療しています。

当科で扱う日常的な小児外科疾患

そけいヘルニア

赤ちゃんやこどもの「脱腸」は、「そけいヘルニア」と呼ばれる病気で約50人に1人に起こります。胎児期におなかの底ができる時に左右の内鼠径輪という場所に刀の鞘のような形の腹膜のくぼみが作られます。多くの場合、このくぼみは自然にふさがりますが、開いたままになっていると、腹圧によってこのくぼみに小腸や卵巣が落ち込んで、足のつけね(そけい部)や陰のうがふくらむ脱腸をおこします。おむつ交換や入浴の時にはふくらんでいたのが、泣きやんでおとなしくなると引っ込んでしまうのが特徴です。普段は違和感や痛みなどはありませんが、はまりこんで抜けなくなってしまうと、腹痛や腸閉塞、脱出臓器の血行障害などを起こす嵌頓(かんとん)ヘルニアとなるため、ヘルニアが発見されたら早めの手術が必要です。
腹腔鏡を用いた小児そけいヘルニア手術(LPEC手術、単孔式LPEC手術(SILPEC))
小児の鼠径ヘルニア(脱腸)は、その原因であるお腹の底の落とし穴(ヘルニア門)を結んで閉じる手術が必要です。従来は下腹部を切開して、ヘルニア門の部分を結ぶ方法で手術されていました。20年前に臍の底から腹腔鏡を挿入して、拡大した画面で観察しながらヘルニア門の周りに糸を回して結ぶLPECという手術が開発され、傷が目立たない、確実な方法として採用している施設が増えています。
福大病院小児外科では、腹腔鏡と器具を同じ臍の底のきずから挿入する単孔式LPEC手術(SILPEC)という方法で傷を減らす工夫をしています。
(腹腔鏡手術の所見 男児のそけいヘルニア手術)

でべそ(臍ヘルニア)

赤ちゃんの「でべそ」は、臍(さい)ヘルニアと呼ばれ、赤ちゃんの5人から10人に1人の割合でみられます。へその緒が取れた直後の臍輪がふさがっていない時期にお腹に圧力が加わると,臍部に腸が飛び出してくる「でべそ」となります。泣きやんだ時に触ると柔らかく,圧迫すると脱出している腸がグジュグジュとした感触で簡単にお腹に戻ります。生後3ヶ月頃まで大きくなり、大きいものでは直径4cm近くになることがあります。ご両親は非常に心配されて来院しますが、ほとんどは腹筋の発育とともに突出の勢いが弱まり、80%は1歳頃、90%は2才頃までに自然に治ってしまいます。
以前は診察のみで経過を見ていましたが、近年、臍の圧迫療法が見直されています。乳児期前半に臍を適切に圧迫し、腸管の脱出を防止することで、ヘルニア門早期の閉鎖を狙うとともに皮膚の伸展を防ぐ治療法です。当院ではスポンジを肌に優しい絆創膏で固定する方法を採用しており、防水のフィルムを貼るため入浴も通常通りで構いません。圧迫固定は病院で医師が行いますので、ご家庭では皮膚の具合を見ていただくのみです。乳児期前半の約1~2ヶ月の固定で9割以上の症例で突出がみられなくなりますが、万一、将来的に手術が必要になっても、余剰皮膚が最小に抑えられるため、形状のきれいな臍を作ることができます。
1~2才を越えても腹圧でおへそがふくらむ場合や,おへその皮膚が余って変形が強い時には手術の対象となります。手術は臍の輪郭で半周ほどの切開を加え、腸の突出してくる穴を縫ってふさいでしまうもので、成長後にかっこよくなるよう工夫しながら引っ込んだおへそを形成しています。

こどもの便秘

一般に考えられているよりこどもの便秘は多いものです。乳幼児期に始まった便秘では,こども本人は,排便をしたいという感覚(便意)や,うまく排便をするやり方がわからないままになっていることが多く,おなかに固まりが触れるほど便がたまり,自力では全く出せない状態になってしまうことがあります。成人とちがって排便のやりかたそのものが身についていないため、本人にはどうしようもないことが多く,お母さん方は「腸やおしりがおかしいのではないか」と非常に心配されて来院されます。
診察で大腸や肛門の特別な病気がない場合は、まず宿便の除去を行ない、浣腸や下剤を用いて毎日の排便を経験させながら排便のやり方を覚えさせていきます。気長に対処していかなければならないこともありますが、排便習慣が維持できれば、成長に合わせて排便の自立が見られるようになってきます。
小児外科医は鎖肛やヒルシュスプルング病などの乳児期におしりの手術が必要なこどもたちの管理を長期間にわたって行うため、こどもの便秘の治療に精通しています。こどもの頑固な便秘や排便困難で悩んでいる方は一度小児外科医にご相談ください。

赤ちゃんのおしりの病気

成人の病気と考えられている痔(じ)は赤ちゃんやこどもにも見られ、肛門の周りにいぼのようなふくらみができて、排便のたびに痛がるため、お母さま方はかなり心配されて来院されます。主なものは次の3つです。
  • 肛門周囲膿瘍
    赤ちゃんの肛門の周りにできるおできで、しだいに中心部が白っぽくやわらかくなり、とんがってきます。おできの先がつぶれたり切開して膿が出てしまえば、小さくなって治ります。ほとんどが男の子で、赤ちゃんによって2-3カ所にできたり、何回も繰り返したりしますが、1歳を過ぎると99%の子は自然に起こさなくなります。
  • 痔核
    赤紫色のいぼ状のふくらみで、排便時に出現します。いきみの強い赤ちゃんに見られる痔静脈のうっ血で成人の痔核の初期と同じものです。
  • 裂肛
    排便時に肛門が裂けてできるいわゆる「切れ痔」で、女の子に多く、くり返し起こると裂け目の外側がひだ状にもりあがる「みはりいぼ」というポリープを形成して、痔ではないかと来院されます。
小児外科外来では、腫れや痛みが強い場合は軟膏や消毒の処置をしますが、多くは便通を整え、おしりを清潔に保つようにするだけで自然に治ります。

こどもの虫垂炎

一般に「もうちょう」と呼ばれる病気は、虫垂で起こる化膿性炎症である急性虫垂炎のことを指します。虫垂はミミズのような形をした細い腸で袋小路になっており、便の固まりやリンパ組織の膨らみによって中が詰まりやすくなっています。普通の腸炎では腸の中で病原菌が増えても下痢を起こして流されてしまいますが、閉塞した虫垂内では細菌の逃げ道がないため、炎症が次第に虫垂の壁をむしばんでいきます。進行すると穿孔して腹膜炎を起こすため、虫垂を切除し病原を取り除く手術が必要になります。症状として腹痛や嘔吐、発熱が見られますが、おなかの痛みが最初はみぞおちあたりで、徐々に右下腹部に移ってくるのが特徴です。小さなこどもの虫垂炎は症状や診察時の訴えがわかりにくいことが多く、穿孔したり腹膜炎を起こして初めて見つかることも多く見られます。また小児期には風邪や腸炎をはじめ手術の不要な右下腹部痛を示す病気がたくさんあり、私たち小児外科医にも見分けがつきにくいことがあります。その場合は入院の上、いつでも手術ができるように用意をしながら厳重な観察を行うようにしています。

腸重積

生後4ヶ月から3歳頃までの乳幼児期に起こる、小腸が大腸の中にはまりこんで腸閉塞を起こす病気です。はまりこんだ腸の血のめぐりが悪くなるため、放っておくと腸がいたんでしまいます。腸重積が起こると赤ちゃんは周期的に起こる腹痛のため激しく泣き、嘔吐や腸粘膜の血流障害による血便が見られます。不機嫌で元気のない状態と嘔吐が続くため小児科の先生にかかり、浣腸で血便を指摘されて初めておなかの病気とわかることも多く見られます。
治療はまず、おしりから造影剤や空気を注入し圧力をかけて、肛門の方に向かってはまりこんだ小腸を口側に向かって押し戻す高圧浣腸による整復を行います。腸重積症の8〜9割はこの手技で治りますが、整復できなければ、緊急に腸のはまり込みをほどく手術が必要となります。
当院では腸重積症に対しても傷の小さな腹腔鏡下手術で対応しています。

胃瘻の造設

先天性の障害や神経疾患などで食事をとることができない患者さんに対しては、鼻から胃の中にチューブを留置して栄養剤を注入する方法が行われています。この方法は簡便で有用ですが、鼻やのどに常時チューブが通されて頬にテープで固定されていること、自分で抜いてしまう場合に手の抑制が必要となること、入れ替えの際に入りにくくなったり、間違えて気管に入ったりすることなどの問題点もあります。
このような問題が大きくなった場合に、胃瘻という腹壁と胃壁を通して貫通させた体外と胃内を結ぶトンネルを作成することがあります。そこに専用のチューブを通しておくことで胃への直接の栄養注入が可能になります。
成人例の多くは、口から挿入した内視鏡(胃カメラ)で胃の中から見ながら腹壁と胃壁を器具で穿刺してトンネルを作るPEG(内視鏡補助下胃瘻造設術)という方法で行われています。小児外科でも全身麻酔下に同様の胃瘻造設も行っていますが、身体の変形が強く、胃の位置に異常がある場合や胃への内視鏡挿入が困難な場合は、腹腔鏡を補助に用いた手術やPEGによる胃瘻造設術を患者さんごとに工夫しながら行っています。へその小さな傷から腹腔鏡を入れて、おなかの中をのぞきながら胃の正しい場所に確実にトンネルが作ることが可能になります。
胃瘻についての相談を頂いた時には、実際に使う道具である胃瘻ボタンを触ってみていただきながら手術や管理法の説明を行っています。