肺移植をお考えになる患者さんへ
肺移植ってどんな治療?
肺移植とは、肺の病気(癌の末期などは除く)によって呼吸機能が著しく低下し、これにより強い呼吸困難症状を来した方に対し、ご自分の肺(病気の肺)と提供者の肺(健常な肺)を入れ替える(移植する)ことによって呼吸機能を取り戻していただく治療です。脳死になられた方から肺を頂いて移植する形式を「脳死肺移植」、健康なご家族等からその方の肺の一部を頂いて移植する形式を「生体肺移植」と呼びます。
肺移植が必要な状態とは?
- 肺の病気で呼吸機能が著しく低下し、安楽な生活ができない状態
- すでに酸素吸入が必要か、またはそれに近い状態
- 手術や薬物治療など、いかなる治療も効果が見込めない状態
- 病気が進行性であるため、長期の生存が見込めない状態
- 肺だけが悪く、それ以外の臓器は健康を保っている状態
肺移植をお受け頂くための基本条件
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年齢条件
・片肺移植の場合、60歳未満であること
・両肺移植の場合、55歳未満であること
※片肺移植・両肺移植のどちらが必要かは、個々の患者さんの状態に拠ります
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全身の状態に関する条件
・肺以外の臓器機能がほぼ正常で、健康な状態であること
・がん等の悪性疾患をお持ちでないこと、または完治が確認できること
・肺移植によって元気な状態になれる見込みがあること
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患者さんの意思・意欲・家族のサポート
・肺移植で健康を取り戻し、元気になりたいという強い意志があること
・それを支援する家族・近親者の積極的な支援があること
肺移植が必要な具体的な病気は?
- 肺高血圧症
- 肺線維症・間質性肺炎
- 肺リンパ脈管筋腫症(LAM)
- 閉塞性細気管支炎(骨髄移植後の肺障害を含む)
- 重症肺気腫
- 気管支拡張症(嚢胞性肺線維症を含む)
- 関連学会がみとめるその他の肺移植適応肺疾患
※肺癌やその他の悪性疾患(癌・肉腫・血液由来の悪性疾患)による呼吸困難は肺移植の適応にはなりません。
肺移植の効果は?
肺移植が成功すると患者さんは大変元気になります。移植前は酸素吸入が欠かせず、ほとんどベッド上の生活であった患者さんが、移植後には酸素を必要としなくなるばかりか、旅行に出かけたり、仕事に復帰したりできるようになります。若い患者さんであればスポーツに参加できるようになることもあります。移植を契機に新しい人生が始まる、と言っても過言ではないでしょう。
肺移植の弊害は?
肺移植手術は、通常の肺癌手術などと比較すると危険性の高い手術であり、期待した効果が得られないこともあります。その理由は、手術そのものの侵襲が高いことに加え、拒絶反応や感染症、臓器再潅流障害など、臓器移植に特有のたくさんの問題があるからです。
また、移植手術がうまくいっても、拒絶反応を抑えるために免疫抑制剤を生涯内服しなければなりません。これによって感染症にかかりやすい状態が続きますし、術後に何年もたってから拒絶反応が起こる可能性もあります。
また、免疫抑制剤の長期内服は「がん」の発生率を通常の10倍まで高めるとも考えられています。
脳死肺移植と生体肺移植の違い?
【脳死肺移植】
「脳死肺移植」は脳死になられた方からの篤志の「臓器提供」をうけて実施される臓器移植です。「脳死肺移植」を受けるためには福岡大学のような移植実施施設で厳重な検査を受け、「臓器移植ネットワーク」に名前を登録しなければなりません。「脳死臓器移植」の詳しい内容と仕組みは「日本臓器移植ネットワーク」のホームページから閲覧することができます。
【生体肺移植】
生体肺移植は、脳死肺移植とは異なり健康な近親者(生体ドナー)から肺の一部分の提供を受けて実施される移植です。通常は、病状が重くて「脳死臓器提供を待つ時間的余裕がない場合」に実施されます。
生体肺移植は原則的に2名の生体ドナーが必要です。一人のドナーから右あるいは左の肺の一部(下葉と呼ばれる部分)を提供していただきますが、これはその提供者の方の肺全体の約25%程度になります。しかし、移植を受けるのが「小さな子どもさん」や「体格の小さな大人」の場合、例外的に「提供者が一人」でよいこともあります。
生体肺移植のドナー条件(姻戚関係)
福岡大学では生体ドナーとなる方は原則的に2親等以内の親族・姻族すなわち『両親・兄弟に加えて配偶者(夫または妻)』までと定めています。(福岡大学生体肺移植実施基準)。特殊な事情でこの範囲を超える姻戚関係の方(例えば伯父や叔母等の3親等縁者)に提供をお願いする場合は、「福岡大学倫理委員会」の厳重な審査を経なければなりません。この「生体ドナー姻戚条件」は各実施施設によって異なる場合があります。
【脳死肺移植と生体肺移植に関する福岡大学の考え】
福岡大学肺移植チームは、「臓器移植は脳死移植が基本である」と考えています。生体肺移植は健康なドナーに負担をかける移植形態であるため、「移植希望患者さん」の病状が脳死臓器移植の順番を待ちきれないと判断された場合にのみ実施いたします。
このような理由から生体肺移植希望の患者さんにも原則的に「脳死肺移植」登録をして頂くことを前提としています。しかし、病状が悪すぎて脳死移植登録を実施する時間的余裕すらない患者さん、あるいは脳死臓器提供が見込みにくい子どもの患者さんの場合は緊急で「生体移植」を実施する場合もあります。
経費はどのくらい?(肺移植の医療費)
肺移植には莫大な経費がかかります。しかし、2008年から「脳死肺移植」「生体肺移植」共に健康保険適応が可能となりました。以前は患者さんが資金集めのために「募金活動」などを余儀なくされていたことを考えますと大変な変化です。
患者さん個々がお持ちの「健康保険」や「医療保護」によって支払額は変わってきますが、少なくとも膨大な額ではありません。詳しいことは受診の際にお尋ねください。
肺移植を受けるにはどうしたらいいの?
肺移植をお受けになるためには詳細な医学資料が必要になります。この為、現在おかかりの先生に「病歴」、「検査データ」、「レントゲン画像」に関する情報を頂かなくてはなりません。まずは現在の主治医にご相談になり、福岡大学肺移植チームにご連絡をとって頂くようにご依頼下さい。詳しくは、以下の
肺移植患者さんのご紹介をご参照下さい。
福岡大学の脳死肺移植・生体肺移植プログラムのこと
日本の肺移植施設
肺移植をはじめとする「脳死臓器移植」は、「臓器移植法(1997年発効)」という特別な法律のもとで実施されています。肺移植はこの法律に基づいて指定された国内11か所の病院のみで実施を許されており、福岡大学病院はその一つです。肺移植希望の患者さんは福岡大学病院のような最寄りの「肺移植認定施設」で検査を受け、脳死肺移植登録をする必要があります。
福岡大学の肺移植プログラム
福岡大学病院は2005年に「脳死肺移植・生体肺移植」の実施施設に指定され、2006年には「九州で初めての脳死肺移植と生体肺移植」を実施しました。
その後、福岡大学の肺移植プログラムは着実に経験を重ね、105件の肺移植を実施いたしました(脳死肺移植94件、生体肺移植11件)。現在福岡大学では九州一円より常時30名以上の脳死肺移植待機患者さんが移植待機をされています。
福岡大学肺移植プログラムの歩み
- 2005年5月
- 脳死肺移植登録受付開始
- 2006年10月
- 第1例目脳死片肺移植実施
- 2006年11月
- 第1例目生体肺移植実施(当時世界最年少の小児生体肺移植例)
- 2007年08月
- 第2例目生体肺移植実施(成人間の片肺生体肺移植国内1例目)
- 2010年01月
- 第1例目脳死両肺移植実施
- 2012年4月
- 福岡大学病院 移植医療部新設
- 2014年4月
- 福岡大学病院 臓器移植医療センター新設
- 2017年10月
- 脳死・生体肺移植30件達成
- 2018年01月
- ベトナム共和国 軍病院肺移植プログラムとの協力協定締結
- 2019年08月
- ベトナム共和国・軍病院での2例目脳死肺移植実施
- 2025年6月
- 脳死・生体肺移植100件達成
肺移植を受けるまでの段取り
まず最初に
「肺移植が必要かもしれない」と言われたら、現在かかりつけの先生に「福岡大学病院・肺移植外来」への受診を手配して頂きましょう。
呼吸状態が悪く、かつ距離的に福岡大学への受診が難しい場合は、肺移植担当医と移植コーディネーターにより往診をすることも出来ます(出張費用を請求する場合があります)。
登録前検査
「福岡大学病院肺移植外来」を受診されたら、持参いただいた資料と病歴の聴取から肺移植適応の判断をいたします。
肺移植が適応される状態と判断されたら、約2週間の検査入院を計画します。
脳死肺移植登録作業
【肺移植適応学内評価】
検査入院の結果に基づき、肺移植適応の是非を検討します。評価会議には福岡大学呼吸器外科、呼吸器内科、および関連各科・部門が参加します。
【第3者評価】
肺移植適応が確実と判断されたら、判断の客観性を担保するため、第3者学外評価を行います(九州肺移植検討会または近畿肺移植検討会)
*脳死肺移植を準備する際は、移植適応を客観的に評価するために学外の専門家による第3者評価が実施されるべきとされています。九州肺移植検討会は福岡大学と長崎大学、近畿肺移植検討会は京都大学・大阪大学・福岡大学等がそれぞれの肺移植候補患者さんを相互に評価する検討会です。
【脳死肺移植登録】
第3者評価を終了したら、「中央肺移植検討会」に脳死肺移植登録を申請します。ここで登録許可が得られたら、日本臓器移植ネットワークにお名前を登録します。
待機期間
登録から肺移植実施までの平均的待機期間は2020年現在でおよそ2年半です。
日本臓器移植ネットワークは、臓器(肺)提供が実施されたら登録順に臓器(肺)を斡旋します。
緊急生体肺移植
待機期間中に状態が悪化し、脳死臓器提供を待てないと判断された時、近親者からの生体臓器提供が可能な場合は緊急の生体肺移植を実施することが出来ます。詳しくは「生体肺移植」の項をご覧下さい。
遠隔地在住の方の場合
脳死肺移植は、ドナー(肺)が得られたときに緊急に実施されます。この際、移植を受けられる患者さんは県外在住であっても緊急(概ね6時間以内)に自力で福岡まで移動し、福岡大学に入院されなければなりません。
緊急の移動が困難なほど状況が悪化した患者さんは、移植のタイミングが近づいた時点(登録後1年半~2年)で事前に福岡大学或いはその周辺の協力病院に転院し、待機していただくことがあります。
肺移植の実際
福岡大学で移植待機中の患者さんへの「臓器提供」が決まったら、「臓器移植ネットワーク」から福岡大学病院に直ちに連絡が入ります。福岡大学肺移植チームはそれに応えられるように常に準備をしています。移植を実施することが決まった患者さんは福岡大学肺移植チームから連絡を受け、例え夜間であってもすぐに福岡大学病院へ入院していただくことになります。これと同時に福岡大学からは4名の医師からなる「摘出チーム」が「提供病院」へ向かいます。篤志の提供者に十分な礼を尽くして「提供肺」を受け取った後、福岡大学チームは必要に応じてチャーター機などを使用し、大切な「移植肺」を一刻も早く福岡へ運びます。この間、福岡大学病院では「肺移植手術」の準備をすすめ、「移植臓器」の到着と同時に移植手術を実施いたします。
ご紹介いただく先生方へ
肺移植患者さんのご紹介
肺移植外来
福岡大学では、週に1日(木曜日)に「肺移植外来」を開設しています(完全予約制)。地域連携室(
092-801-1011)あるいは直接に移植コーディネーターを通じて予約をおとりください。
受診にあたっては事前に診療情報と画像資料をお送り頂けますとスムースな受診が可能となります。可能な範囲でのご手配をお願い申し上げます。
福岡大学呼吸器外科「肺移植外来」(予約制)
木曜日 09:00-15:00
担当 宮原 聡
肺移植に関する問い合わせ
患者さんご自身、或いはご紹介いただく先生方からの相談を下記お問い合わせフォームより受け付けます。お気軽にご質問ください(基本的に「コーディネーターからのご返答」になります)。但し、メールには御氏名、居住地を明記ください。匿名(差出人不明)のメッセージにはお答えできません。
肺移植プログラム担当者
呼吸器・乳腺内分泌・小児外科/臓器移植医療センター
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宮原 聡(肺移植プログラム責任者/准教授)
-
緑川 健介(助教)
呼吸器内科
臓器移植医療センター(移植コーディネーター)
-
當房 悦子(肺移植担当)
-
横山 陽子(腎移植担当)
肺移植に関する情報提供
肺移植パンフレット「命の贈り物」
肺移植実施施設で編纂した肺移植パンフレットです。詳しい情報をお求めの方はご覧ください(2007年版の為、費用や実施施設に関する情報に一部不正確な部分が含まれます)
福岡大学肺移植News Letter
肺移植についてのQ&A
一般的なこと
- 肺移植が必要な病気にはどんなものがありますか?
-
肺高血圧症、肺線維症、びまん性肺脈管筋腫症(LAM),肺気腫など代表的です。この他にもいろいろな病気が肺移植の適応になります。ただし、肺がんなどの悪性疾患は適応になりません。
- どのような状態になったら肺移植の適応でしょうか?
-
常時酸素吸入が必要になり、外出もままならなくなり、主治医から「あまり長生きできないかもしれない・・」と言われたら、肺移植の適応の可能性があります。
- 肺移植には高額な費用が必要ではありませんか?
-
いいえ、健康保険が適応されますから通常程度の医療費しかかかりません。これは脳死移植でも生体移植でも同じです。
- 肺移植はどこの病院で実施可能ですか?
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現在肺移植ができるのは国内で7つの大学病院だけです。福岡大学はその一つです。
- 肺移植を考えたほうがいいと言われました。まずどうしたらいいでしょうか?
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肺移植外来をご予約の上、受診してください。患者さんが移動しにくい場合、最初の受診はご家族だけでもかまいません。現在の担当の先生にもお話し、資料を作ってもらってください。ご不明な点やお聞きになりたいことがありましたら、下記お問い合わせフォームより相談を受け付けています。お気軽にご質問ください。
脳死肺移植のこと
- 脳死肺移植を受けるには臓器移植ネットワークに登録しないといけないと聞きましたが、どうしたらいいですか?
-
登録は、「その患者さんが肺移植を受ける施設」が行います。御心配には及びません。
- 登録してから「移植を受ける順番」が回ってくるまでどれくらいかかりますか?
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現在は平均2.5年くらいですが、これは流動的です。待機期間は長いですから、「肺移植が必要」と言われたら早めの登録をお勧めします。
- 登録したら、福岡大学病院の近くに住まないといけませんか?
-
いいえ、現在福岡大学では九州一円の方が登録されていますが、みなさんそれぞれの居住地で過ごされています。
- 肺を提供してくれる人が現れたらどうしたらいいですか?
-
提供者が現れたら電話で連絡します。夜間・昼間を問わず連絡が入りますからいつも電話を身近に置いておかないといけません。電話がかかったら、移植を受けるかどうかすぐ返答していただきます。移植を受けるときは大急ぎで福岡大学病院へ移動し、手術準備に入ります。「電話」が入ってから「手術開始」までは概ね12-24時間の猶予しかありません。遠方に居住されている場合は緊急時の移動手段を考えておく必要があります。
- 手術の危険性はありますか?
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手術死亡率は10-15%と言われています。最初の1年以内の死亡率は20%程度です
生体移植のこと
- 生体肺移植のドナーは誰でもなれるのですか?
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福岡大学は、生体肺移植のドナーとして2親等以内(事情によっては3親等まで)の親族と配偶者をドナーとして受け付けます。
- 生体肺移植のドナーは2名必要ですか?
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多くの場合2名必要ですが、患者さんが比較的小柄でドナーが大柄な方の場合、ドナーが一人でよい場合もあります。
- 子どもの肺移植も可能ですか?
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概ね小学生以上であれば十分可能です。
- 肺を提供したら後の健康はどうなりますか?
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ドナーからは20-25%に相当する量の肺を提供していただきます。その後の健康状態に対する影響は極めて限定的です。
- 脳死移植と比較して生体移植の良いところはどこですか?
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十分に準備を整えて実施できるのが最大の利点です。また、遠方から殻臓器を運ぶ必要のある脳死移植と比較してドナー臓器も大変いい状態で移植できます。
移植の後のこと
- 免疫抑制剤はずっとのまないといけませんか?
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そうです。ただし1年くらいたつとかなり減量ができます。
- 免疫抑制剤の副作用はありますか?
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感染がおこりやすくなることが最も大きな副作用です。そのほかにも腎機能が悪くなったり糖尿病になりやすくなったりします。実際に移植を受けるときは、患者さんもこれらの点をよく勉強しないといけません。
- 移植がうまくいった人たちはどうなっているのですか?
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普通に近い生活ができるようになります。多くの患者さんが学校や職場に復帰したり、旅行や運動ができるようにまでなります。
- 移植後の通院について
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退院したら2週間ごとに通院してもらいます。約1年経過すると1-2カ月に1度の通院でよくなってきます。
- 福岡大学の経験は?
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2006年に福岡大学肺移植プログラムが開始されて以来、九州全県から延べ70名の患者さんが紹介され、23名が登録されました。このうち3名が脳死移植を、2名が生体移植を受けられました。